okku's diary

Jリーグ・大宮アルディージャ・読書・読書会について書くブログ

ミュリエル・スパーク『死を忘れるな』読書会の覚え書き

ミュリエル・スパーク『死を忘れるな』の読書会に参加したのでその覚え書きを。読書会で話された事よりは、読書会に出て私自身があれこれ考えたこと中心につらつらと書きます。※①若干のネタバレを含みます ※②個々の発言部分は記憶に頼って書いています。その点は十分留意してお読みください。

読んでいて非常に楽しく、なおかつ色々な事を考えさせられる作品です。

死を忘れるな (白水Uブックス)

死を忘れるな (白水Uブックス)

 

「死ぬ運命を忘れるな」と電話の声は言った。デイム・レティ(79歳)を悩ます正体不明の怪電話は、やがて彼女の知人たちにも広がっていく。ある者は疑心暗鬼にかられて犯人探しに躍起となり、ある者は悠然と受け流し、ある者は彼らの反応を記録して老年研究の材料とした。謎の電話が老人たちの生活に投じた波紋・登場人物ほぼ全員70歳以上の複雑な愛憎関係を、辛辣なユーモアで描いたイギリス小説の傑作。 - 本書の紹介文より

 

  • 参加したのは猫町倶楽部のオンライン読書会。ここの一分科会である駒井組の読書会でした。駒井組は光文社古典新訳文庫の創刊編集長である駒井稔さんが課題本の選書と課題本についての様々なお話をしてくださる会。会の流れとしては 開始前の解説>読書会>30分程度の質疑応答、という感じ。
  • 駒井さん曰く、ミュリエル・スパークは20世紀のイギリス作家の中では極めて重要な存在であるとのこと。しかしながら日本ではよく知られているとは言えない状態である、と。
  • 紹介文にもある通り、主要登場人物のほぼ全員が70歳以上の物語。それぞれの登場人物の生きてきた時間の厚さと人間関係の絡み合い、そしてそれぞれに訪れる老い。これらが随所に効いて物語が展開していく。ここが魅力的なところ。
  • 基本的に笑える小説だと思う。クスりとするジョークが沢山ある。その中には大真面目な話ともジョークともとれる部分もあり、この両義性を持っているところがイケてる。
  • 物語の作りこみが凄い。
  • 本書が出版されたのは1959年。この時点で高齢者の世界・高齢者社会を鋭く書いているのがすごい(おまけに執筆当時作者は40代)。
  • 他の方の感想で、「死に対するスタンスの違いでこの物語の解釈が分かれるのではないか」というのが確かにそうだなと思った。死ぬという事が良い事と思うか悪い事と思うか、というのを参加者全員に簡単に聞いてみてから感想を聞くのも面白そう。
  • 読み終わって思い出したのは(ドラえもん等で有名な漫画家の)藤子F不二雄先生のこと。F先生は自身の作品について[SF=すこしふしぎ]という言葉で語っていました。例えば『ドラえもん』だとドラえもんひみつ道具というのは非現実的な存在だけれど、その他は至って”ふつう”の要素で構成された日常的な世界の物語なんですよね。そして巻き起こる騒動も世界を揺るがす大騒動ではなく、日常的な世界の延長でもある。どうすれば先生の家庭訪問を阻止できるかとかどうすればジャイアンリサイタルを中止させられるかとかそんな話(大長編は例外)。本書もそうした性格があるなあと思いました。物語の中で唯一の非現実的な要素って「死ぬ運命を忘れるな」という謎の電話だけで、後は極めてふつうの社会の中で物語が進行していく。この点が似てるなと思ったのです。
  • 電話の声がなぜ電話を取った人物によって違う声なのか(違う声に聞こえるのか)、という点をどう解釈するのかが面白かった。電話の声の印象というのは主観的なもので、これがポイントになるのではないかという話がありなるほどと思いました。
  • 死を意識する・死について徹底的に考える。このことの重要性について思考を向けさせる作品でした。死について考える事、その良し悪しについては色々見解はあるでしょうが、死について考える文化や生活の在り方があるという事を知ること。まずこれが大事なことなのではないかと思わされた本でした。
  • 駒井さん曰く、翻訳に古い点がある(白水Uブックスに収録されているのは1964年の仕事)。新訳を行えばもっと早くこの物語の理解に到達できる訳が出来上がるのではないか、とのこと。個人的にこの訳でも十分本書を堪能できたと思いましたが、訳によって更に本書の魅力が増すのだと思うと…新訳が行われることを期待せずにはいられません。
  • これも最後に駒井さんが仰っていたことですが…「外国の文学を読む際にその地域の文化についての知識があった方がより理解できる、物語で描かれている人物達は自分達とは全く違う考えをベースに生きているという事を意識する事は重要。しかし前提知識が無ければ読めないという事はない。文学の本質はそこではない。これを超えたところに文学の価値がある」(まさに覚え書きなので齟齬があるかもしれません…)。熱く語る駒井さんを見て改めて感銘を受けた夜でした。

 

  • 沢山の登場人物が出てくる作品です。この事に加え、人名の呼び方の変化に馴染みがないと人物関係の把握に少し苦労するかも、という話がありました(多少戻って読み返すことはありましたが、自分の場合そこまで登場人物の把握には苦労しませんでした)。確かに人物表などがあれば余計なストレスを感じることなく読書に没入できるのは間違いありません。なんと今回は有難いことに今回の読書会のサポーターの方が登場人物についての資料を作成して頂きました。これから読まれる方は読書のお供に是非どうぞ。

 

  • 関連書紹介 

読書会で駒井さんが紹介してくださった本の中から個人的に気になるものをピックアップ。

ブロディ先生の青春

ブロディ先生の青春

 

ミュリエル・スパークの作品は近年、木村政則さんという方が精力的に翻訳・新訳を行っているそうです。その中で次に読むならという事で話題に上がったのが「ブロディ先生の青春」。映画化・テレビドラマ化もされた作品。

  

ご遺体 (光文社古典新訳文庫)

ご遺体 (光文社古典新訳文庫)

 
回想のブライズヘッド〈上〉 (岩波文庫)

回想のブライズヘッド〈上〉 (岩波文庫)

 

 ミュリエル・スパークと同じくカトリック作家・ブラックユーモアを描く作家として紹介頂きました。とりあえず『ご遺体』は買っておこうかな。

 

  • 個人的な関連書
イギリス現代史 (岩波新書)

イギリス現代史 (岩波新書)

 

7月はカズオイシグロの『日の名残り』も読んだし、今年はようやく『ぼくのプレミア・ライフ』 を読んだりと、現代イギリスものの作品を今年は読んでいるので折角なので少し現代のイギリスについて勉強しようかなと思って読んでます。

 

最後の読書

最後の読書

 

老い、という事であれば老人の読書について扱ったこちらの本も面白かったです。