「僕たちの知っているサッカーって大分限定的だったんだね」ヨコハマ・フットボール映画祭2020参加レポ
去る1月26日。ヨコハマ・フットボール映画祭2020に行ってきました。初めての参加だったですが予想以上に楽しく刺激に満ちた場所だったので、このイベントの様子と感想を書き残したいと思います。
そもそもこのイベントは何?という方はサッカーファンの方でも多いと思うのですが、これはサッカーの映画祭&文化祭なのです。
サッカーと映画、というとあまりピンと来ない方がほとんどだと思います。日本ではあまり触れる機会はありませんが、世界では沢山のサッカー映画が製作されているそうなのです。そんな世界のサッカー映画を紹介するのがこの「ヨコハマ・フットボール映画祭」。今年で10回目の開催とのこと。
この映画祭ではフットボール文化祭と題したブースもあります。こちらはサッカーにまつわる様々なものが展示されていて、私たちの知らないサッカーの世界・サッカーの切り口がこんなに存在するのか…ということを知ることができる場所です。まさに文化祭という言葉がぴたりと当てはまる空間でした。
それでは当日の様子と感想を。
今年の会場は横浜開港記念会館でした。関内駅(ベイスターズ本拠地ハマスタの最寄り駅)から歩いて10分ほどのところでアクセスは〇
今年のビジュアルポスター。
メインのスクリーンはこんな感じ。首をあずけられるような作りの椅子ではないですが、映画鑑賞には十分でした。もっとこじんまりとした雰囲気をイメージしてました。(今回スクリーンはもう一つあったみたいです)
ほとんどの映画で放映前後のゲストトークがあったみたいです。自分の見た作品では日本ソーシャルフットボール協会の方からの解説&質疑応答の時間がありました。
今回見た作品は『ソーシャルフットボール イタリアからの挑戦』(原題:『Crazy for Football: The Craziest World Cup』)
映画の詳細は↑の記事を参照してほしいのですが…それぞれ違った「精神障害」を持った人々がイタリア代表選手を目指した競い合いとトレーニングを通じて段々チームになっていき、最後は国際大会(開催地は日本!)優勝を目指して奮闘する…というストーリー。タイトルはフットボールとなっていますが実際の競技方式はフットサルに近いものです。
印象に残ったのは選手同士のコミュニケーションでした。全員が何らかの心の病を持っている…となると選手間やコーチとのコミュニケーションって大変なのでは?と思ったのですが、見た印象としては「ふつうのスポーツチーム」と変わらないなあと思いました。特別な工夫をしてやっとまわるという感じでは全然ない。何の説明もなく練習風景の映像を見たら、心の病を持っているようには見えないのではないかと思います。*1
監督の指導風景も「ふつうのスポーツチーム」とあまり変わりない印象を受けました。選手に対して何か腫物を触るような扱いをするとか、特別な配慮をしている…という感じではなかったです。戦術面の指導もガッツリやっていました。とりあえず試合ができればいい、という雰囲気では全くなく勝利を目指してチーム作りに取り組んでいた感じです。ただ監督の能力がこのチームとマッチしている面はあって、モチベーションを上げることやチームを調和させる能力には長けた監督だなとは思いました。もしかしたら監督なりに色々な学びを踏まえて行きついた指導法や工夫があったのかもしれません。監督のこの辺のバックグラウンドが分かるともう少し面白かったですね。
解説の方が触れていたことで気になっていたことが一つ。いわゆる”健常”のアスリートの間でも多くの選手がメンタルヘルスの問題を抱えていることが分かってきている、ということ。これは確かにその通りで、サッカー界でも心の病の事は以前より多く話題に取り上げられるようになってきました。
サッカー界は心の病があることを選手が打ち明けにくい環境である、という話は聞いたことがあります。闘う姿・(特に男性アスリートには顕著であろう)男らしい姿勢、といった姿が選手に求められがちな世界であり、そうしたイメージにそぐわないとされる「心の病」を持っていると告白するのは難しいのではないか、と言われているのです。また移籍マーケットでの駆け引きや年俸交渉を行う上で重要な「選手の市場価値」へ影響させたくないという事情もあるでしょう。だからといってこのままでよいとは思えません。既に深刻なケースもあり、今から10年前にはうつによりロベルト・エンケ(当時現役のドイツ代表選手でした)が亡くなっています。最近でこそイニエスタ等うつやメンタルの問題について告白する選手が増えている事から徐々にサッカー選手も「心の病」を持つ、ということが知られるようにはなっています。とはいえ選手が周りに打ち明けづらい・公にしづらい、という状況が変わるためにはまだまだいくつもの変化と時間の経過を要する問題なのではないかと思います。
ソーシャルフットボールはサッカー・フットサル選手達の「心の病」問題においても貢献できるものなのではないでしょうか。例えば毎年プロ選手がソーシャルフットボールのチームの中に入ってプレーする機会を作るようにすることでサッカー界・フットサル界において「心の病」への理解が進むようになる…といった変化を起こせるかもしれません。もちろん「心の病」からのリハビリ中の選手がソーシャルフットボールチームでプレーする、という関わり方も考えられそうです。
ソーシャルフットボールから「ふつう」のフットボール界への動きも色々な可能性がありそうです。元々はレクリエーション目的でソーシャルフットボールを始めた人が、競技にのめり込んでいくうちに「健常者」チームでのプレーに興味を持ったとします。そして実際にプレーするようになることで当人・そして当人に関わった人たちに新しい気づきや変化が起こるのではないでしょうか。ソーシャルフットボール界の状況が分からないので完全に推測になりますが、いわゆる「健常者」チームにも既に沢山「心の病」を持った方が参加しているのかもしれません。ですが、ソーシャルフットボールがきっかけで「ふつう」のフットボールに関わる人が今よりもっと沢山いる世界は十分ありうるのではないでしょうか。そしてそうなった時にフットボール界、そして世の中はどう変わるのでしょうか。
ソーシャルフットボールと「ふつう」のフットボール、この二つの世界がもっとボーダレスになることで開ける世界があるのではないかと思いました。
映画を見た後はこちらのエリアへ。
こちらがフットボール文化祭のエリアです。フットボールにまつわる色々なものが展示されていました。
今回まず刺さったものはこれ。その名も「おはじきサッカー」英語圏では「SUBBUTEO」という名称で呼ばれていてヨーロッパでは結構愛好家がいるとのこと。
選手のミニフィギュアが乗っているおはじきを指ではじき、はじいたおはじきをボールに当ててサッカーをするゲームです。結構ルールがよくできていて面白そうなゲームでした。戦術性とかスピード性があって、確かにすごくサッカーっぽいんですよね。
実際どんなゲームなのか?ということについてはこちらのDPZの記事が結構分かりやすいです。
「フットボール文化祭」とは別部屋の休憩室にもこのゲームが置かれていたのですが、こちらでおはじきサッカーのプレイヤーの方々から丁寧にルールを教えていただきました。ゲームの実演までしていただき有難かったです。みなさんどんどん興味を持ってもらいたい!という熱心さに溢れていました。
なんと日本でもおはじきサッカーのクラブチームがいくつもあるのだとか。下記ページにクラブ情報が掲載されています。
チーム名についているOSCとかTFCの意味は、OSC=おはじきサッカークラブ TFC=テーブルフットボールクラブ ということらしいです。サッカークラブっぽい!(ちなみにクラブ活動はヨーロッパだともっと盛んなのだそう)
今回初めてこのゲームを知ったのですが、一度じっくりプレイしてみたいと思いました。
日本で開かれた大会の動画
スーパーゴール集的なもの
続いて今回見つけてよかった!と思ったものがこちらのサッカー雑誌「SHUKYU」です。従来のサッカー雑誌とは違った角度から作られていて、読み応えのありそうなものが沢山載っているところに惹かれました。デザインが洗練されていてオシャレなのも魅力。今回のイベントは読書会仲間と訪れたのですが、その方と「写真が今までのサッカー雑誌と違った撮り方をしていて面白いね」「女性の扱い方が今までのサッカーメディアと全然違うよね(いわゆる〇〇美女特集!的なものとは全く違う)」といった話題で盛り上がりました。
こちらの雑誌は確かどこかで名前を見かけたことはあったかもしれないけれど…実物を見たのは初めてでした。オンライン以外だと直販取引ができる一部の書店等にしか置いていないようなので、この機会に触れられてよかったです。サッカー文化を豊かにしていくのはこういった雑誌達なのだと思います。それはこのSHUKYUみたいなテイストでないとだめ、ということではなく色々な角度・カラーを持った雑誌があるのが豊かな状態だと思うのです。その1プレイヤーとして素晴らしい動きですね。今後にも注目。
その他印象残ったものについてざっと振り返ってみます。
まず「日本ソーシャルフットボール協会」さんのブースでのお話しで気づいたことについて。先ほどもソーシャルフットボールの話題について触れましたが、ブースの方と話していて気づいたことがありました。それはJクラブの取り組みについてのこと。
ガンバ大阪はスカンビオカップというソーシャルフットボールの大会を行っているそうなのですが、「障がい者サッカー」というカテゴリーで見ると色々なJクラブが様々な取り組みを行ってるそうです。
例えばマリノスは知的障がい者のサッカーチーム「横浜F・マリノス フトゥーロ」というチームを運営しています。こちらのチームは昨年のJ1優勝が懸かった最終節の前座試合でプレーをしたのだとか。アルディージャも同カテゴリーでは「ORANGE! HAPPY!! SMILE CUP!!!」という大会を毎年開催しています。
そうしたことを知ると、自分が応援しているチーム以外の事って全然知らないのだなあと改めて思いました。個々のチームの取り組みが単一の点ではなく、沢山の点があったり線になっているように見えると「障がい者サッカー」カテゴリーに対する印象は随分違ってくるのではないでしょうか。
ゲキサカに「障がい者サッカー」カテゴリの特集ページがあるのを初めて知りました。すごい。
フットボール文化祭には同人誌の販売ブースも沢山ありました。一緒に行った読書会仲間はJクラブの擬人化本とかクラブをイメージしたカクテル本に驚いていました。他にもサッカー観戦×古墳というテーマの本とかもありました。サッカーという切り口でつながる範囲は広い…。
同人誌ブースの一つ、カウンターアタッカーズさんのところではサッカー本についてのお話を伺いました。
フットボール文化祭始まりました!同人誌はもうすでに3冊売れました! pic.twitter.com/Elbj66ZCks
— カウンターアタッカーズ1/25.26ヨコハマフットボール文化祭出展 (@c_attackers) 2020年1月25日
昔とは違うタイプのサッカー本も売れるようになってきた、という話は新しい気づきでした。例えば戦術本というと以前はヨーロッパサッカーについて取り上げる本ばかりだったが、Jリーグの戦術について書いた本が以前よりも読まれているといった話など…。気づかないところで起きている変化はあるのですね。個人的にはもっとサッカーと社会、サッカーと文学…という方面の本も盛り上がってくれると嬉しいと思います。
2/1追記:ブースの方からのツイートで知ったのですが、セレッソでは昨年スタジムで本を読むイベントを行っていたそうです。
カウンターアタッカーズのブースでお話した者です。ご来場ありがとうございました❗️
— 澤野 雅之@OWL magazine編集長 (@masawano) 2020年2月1日
セレッソ大阪はスタジアムで読書会(自由に本を読む形で)を開催されたそうですし、サッカーに近い場所で開催できたら面白いなぁと妄想しております。 https://t.co/snCvRwElhu
アマチュアサッカー界のラスボス「Honda FC」…のファンの方がHondaFCについてPRしているブースもありました。HondaFCやJFLの事情に明るくなくても、多少サッカーを知っていれば意外と色々お話しできるポイントがあるなと思いました。J以外の日本のサッカーを考えることって結構大事なことで、例えばこのHondaFCのようにJリーグを目指さないチームだからできることってあると思うのです。そういったことを考えることもサッカー文化を考える上で重要ではないかと思います。
~おわりに~
夕方には会場を後にして飲み屋で今日の感想戦をしました。
この日一番の発見は「僕たちの知っているサッカーって大分限定的だったんだね」ということでした。サッカーという切り口でこんなに色々な世界が開けるのか…ということに改めて気づかされた日でした。とても楽しかったです。
ヨコハマ・フットボール映画祭はサッカーという文化の広さと深さを実感できる場であると思います。関東のサッカーファンの方は是非足を運んでみてください。サッカーファン以外の方も是非覗いてみてください。まだ見ぬサッカーの世界はカオスで…サッカーファン以外の方も結構楽しめるのではないかと思います。
最後に気になることが一つだけ。それは1日目に行っていたハーフタイムパーティーの様子ってどんな感じだったのだろう?ということ。このハーフタイムパーティーは、ゲスト・参加者同士でサッカーの事を語り合おう!という趣旨のイベントで、ここがどんな様子だったのか気になっているのです。こういったイベントに来たらあれこれ喋りたくなる”語りたい欲”が参加者の中で生まれるのは自然なことだと思います。そんなエネルギーが溜まった中でパーティーはどんな様子だったのだろう、どれぐらい盛り上がったのだろう…ということが気になります。来年はこちらにも参加してみたいですね。
2/1追記:ヨコハマ・フットボール映画祭の公式アカウントから以下のツイートを頂きました。
ご来場ありがとう並びに詳細などレポートありがとうございました!
— ヨコハマ・フットボール映画祭2020無事終了 (@yffforg) 2020年2月1日
ハーフタイムパーティーも盛り上がりましたので来年は是非ご参加ください。 https://t.co/yaTOUHQX0M pic.twitter.com/R7CWinpdRd
*1:もちろん薬などの助けもあって落ち着いているという面はあると思います。服薬のシーンもありました。